宇宙人

 20XX年、ついにUFOが地球に降りたった。集まった人々は、どんな宇宙人が出てくるのかとドキドキしながらUFOを見つめる。しかし、何かが出てきそうな気配は一切無い。だんだん皆、不安になってくる。
「地球人の存在に驚いてるのかな。」
「いやいや、攻撃の機会をうかがってるんじゃないのか。」
 やがて軍隊が到着し人々を遠ざけるが、依然UFOには何の動きも無い。こうなってくるとどうにも不気味である。軍隊もただ見守ることしかできない。いろいろ呼びかけてみたりするが反応はない。そうこうするうちに、1日たち、3日たち、1ヶ月たってしまった。あれは調査用機器だ、いや地球を丸ごと吹き飛ばせる爆弾に違いない、といろいろな見解が飛びかったが、人々にもっとも支持されたのは、宇宙人は着陸の衝撃で死んでしまったとする意見だった。
 そして、ついに軍隊がUFOに突入することとなった。緊張の一瞬。隊員が撮ったカメラの映像は、世界中に配信された。そこに映し出されたのは、れっきとした宇宙人の映像だった。しかし、それはピクリとも動かず、そのままUFOの外へ運び出され、軍の施設へ運ばれた。UFOの中には、宇宙人の他、白い箱が一つあるきりだった。他には本当に何も無いため、この箱はさまざまな機能をもつ万能機械だと思われ、その仕組みの解明に期待が集まった。
 その箱の内部には回路のようなものがあり、コンピューター解析の結果、意外に単純な要素の組み合わせであるようだった。これを受けて、スーパーコンピューターによる本格的な解析が始まった。ところがこの解析は終了を待たずに中止してしまった。研究者は、現在のコンピューターの能力ではあまりに時間がかかりすぎるため断念した、と説明し、さらに驚くべき事実を発表した。
「この機械の動作はあまりにも遅い。つまりわれわれ人間にとっては遅すぎる、ということだ。ところが、例の宇宙人とわれわれでは時間の感覚が異なっていたんだ。彼にとってはそのスピードで十分だったんだろう。計算の結果、我々にとってのおよそ1年が、彼にとっての1秒だったということがわかった。あわれ、彼は自分が地球に着陸したことに気付く間もなく、体を切り刻まれてしまったんだな。」