見てるだけ

僕は見てただけだ。
TS君がいじめられてるのを、ものかげから。
いじめてるがわは、三人だった。
三対一だった(多数決ってあるよね)。
僕は、いじめるがわにも、いじめられるがわにも、なりたくないって思った。
いじめる人間も、いじめられる人間も、この世から消えちゃえばいいんだ。
そうすれば、いじめのない世界になる。
そんなことを考えてた。
でも、やっぱりわるいのはいじめるほうかもしれない。
あしたには、僕がいじめられるのかもしれない。
そこからは、TS君の表情が見えにくかったから、もっと近づいた。
そしたら、三人のうちの一人が僕に気付いて「何見てんだ」っていった。
僕が「見てるだけだよ」ってこたえたら、「目ざわりだから消えろ」ってかえされた。
TS君は僕の方を見てなかった。
僕はもう一度「見てるだけだよ」っていったんだけど、三人がこわい顔でにらんできたから
さっきとは別のものかげにひそんだ。そこからはTS君の表情がよく見えた。
また、しばらく見てた。
だんだん飽きてきて、もう帰ろうかなと思い始めた頃
三人が「また明日な」っていって帰っていった。
TS君はしばらくじっとしてるみたいだった。
見るものがなくなったから、僕も帰った。
見ていて気持ちのいいものじゃなかったから、明日は僕は行かない。